どうも、こんばんは。
中学生の頃、学校の先生と話してる時に「オセロって大体『先行』が勝ちますよね」と言ったら、
「誰に向かって『先公』って言ってんだ!?」と怒鳴られた経験を持つ緒方です。
ご機嫌いかがでしょうか。
-前回のあらすじ-
資金繰りをするために、区の融資制度を利用しようと考えた緒方は、税理士と一緒に書類の作成を始めた。
-九月某日-
緒方「はじめまして、中小企業支援の融資相談の件で予約していた緒方と申します。宜しくお願い致します」
診断士「はじめまして。担当のAと申します。こちらにご記入ください」
私は初対面の方と話す時、なるべく先入観を持たないようにするために、外見ではなくいわゆる「オーラ」を見るようにしている。
もちろん「オーラ」とは抽象的なものではなく、視線や仕草、声のトーン、落ち着き方から思想など、総合的なものを呼ぶ。
声のトーンや思想を「見る」というのも妙な表現ではあるが、自分にとってはそう表現することがしっくりときた。
『第一印象は外見で9割決まる』と言われているが、そういった固定観念を持っていると、その方の本質を捉えることができないためである。
自分の知らない世界を過ごして来た方達の、新しい風を取り入れなければ、自分の成長を望めないとも言える。
本題に戻ると、診断士のAさんはすごくオーラがあった。
外見は普通のスーツで普通の腕時計をし、60代くらいの紳士ではあるが、一挙手一投足が「オーラのある人」のそれであった。
外見だけで判断できないというのは、つまりこういうことだ。
(…この方は多分、一筋縄じゃいかない気がする。本気でいかないと絶対に審査は通らないな)
緒方「こちらが必要書類と事業計画書です。ご覧下さい」
診断士「…なるほど。レンタルボックスか。こういう仕事があるんですね」
緒方「収入源は主に、月額使用料と登録手数料、売上マージンの3種類となります」
診断士「ふーん。仕入れがないからリスクは少ないですね。主な支出は家賃くらいかな?」
緒方「はい。あとは通信費や光熱費、私の交通費が主となります」
診断士「逆にいうと、リスクがないのになぜ融資を受けたいの?月々の利益をうまく回せば、緒方さんの希望融資額ほど必要はないと思うんだけど」
確かにその通りだ。
去年店作りをしていた時点で大方の基盤は整えていたから、改めて設備投資をする必要はなかった。
銀行側としては貸し倒れリスクを考えて、余剰金を持たせたくないのが本音である。
そして何より「運転資金」としての融資は本意ではないようだ。
緒方「わかりました。改めて資料を作成して来ます」
税理士「なるほど。結構細かい方に当たってしまいましたね」
緒方「生半可な資料だと通らないかと思います。しかも週に一回しか来られない方なので、時間かかるかもしれません」
税理士「そうですか…。少ないチャンスを生かすしかないですね」
-4回目のチャレンジ-
診断士「んー、この人件費の根拠は?」
緒方「1年間の予想利益を4分割して、融資額で補えるように計算してみました」
診断士「なるほどね。あぁ、あとここの雑費って何に使うの?多分銀行に突っ込まれると思うよ。修正して」
またダメか…。
緒方「…一つ、お聞きしても良いですか?」
診断士「どうぞ」
緒方「私はこれで4回目ですが、審査が通らなくて諦めてしまう方は多いんですか?」
診断士「まぁ、多いですね。融資額が希望通りにならなくて、途中で辞退する方とかもいますよ」
緒方「なるほど…」
診断士「でもね、これだけは言えます。途中で辞退するような人は、経営者として責任感が足りてない。
お金の問題は、会社経営にとって死活問題。彼らには有効活用出来ないでしょう。
ここでふるいにかけているのは、何度落とされても立ち向かう気力を、経営者としてしっかりと持ち合わせているかも計っているんですよ」
緒方「…私は次で5回目になりますが」
診断士「え?むしろ良いペースですよ。10回やっても落とす人は落としますから」
診断士の方だって、落としたくてやっているわけではないはずだ。
むしろ私の稚拙な事業計画書を診断して、的確にアドバイスする仕事を無料でしてくれている。
会社経営に関して親身になって、心配してくれてるんだ。
そう考えたら、ありがたい話だとしみじみ思った。
緒方「わかりました。来週もよろしくお願いします」
しかし、予想以上に時間を食ってしまったな…。
このタイミングで新しい棚を作り始めていたのだが、同時進行をすると余計に進まない。
ここで、大きなミスに気が付いた。
募集要項の条件に「融資希望額の1/3程度の資金を保持していること」という項目を思い出した。
もう少し早い段階で審査が通ると考えていた緒方は、棚作成以外に、家賃などの大きな出費が重なり、1/3を下回ってしまっていた。
緒方「…まずいな。正直ここまで時間かかるとは思いませんでした」
税理士「確かに、1/3下回ったら融資額を減額されるかもしれませんね。一時的にでも残高増やしておきますか?」
その方法もあるだろうけど、少し考えてやめた。
緒方「…いえ、正直に言って相談します。見せ金を作ったところで、意味がない気がします」
お金のことで嘘をついた時点で、それはビジネスとして成り立たなくなる気がしたので、誠意だけは守ろうと思う。今までもこれからも。
-10月-
緒方「よろしくお願いします。全て修正して来ました」
診断士「…うん、まぁいいでしょう。金融機関に紹介状を出しておきます」
やっと通った…。
緒方「どうもありがとうございます。…それと、ランニングコストが原因で、融資額に少し届かない資金になってしまったんですが…」
診断士「まぁ、多少なら大丈夫でしょう。しかし、一人でよくやり切りましたね」
緒方「いえ、私一人ではなくて優秀な税理士さんが手伝ってくれました」
診断士「そうでしたか。ひとまずお疲れ様でした」
税理士さんがいなかったら絶対に通らなかった。本当に助かりました。
診断士「そうそう、私の名刺を渡しておきます。相談があったら連絡ください」
診断士さんは、あらゆるNPO法人を十数社掛け持つ理事長だった。
あの時感じたオーラは、やはりこういうことだったのか…(名前を検索したらすぐに出てくるような方でした)
緒方「Hさん、今回は本当に色々とありがとうございました」
税理士「いえいえ、無事に済んで良かったです。私も色々勉強になりました」
緒方「Hさんのおかげで、本当に助かりました。それと、こちらは報酬です」
税理士「ありがとうございます。…さて、給料も入ったことだし、お祝いに飲みに行きましょうか!おごりますよ」
緒方「…私にも少しはカッコつけさせてくださいよ笑」
-終-