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【ブログ】第78回 下町人情かぞえ歌

どうも、こんばんは。

足を向けては寝られない方々が多くて、今度から立って寝ることに決めた緒方です。

ご機嫌いかがでしょうか。

 

Sさん「あら、ついに回る棚が完成したのね。よくできてるわねぇ」

 

当店が入るビルの清掃をしてくれるSさんは、火曜日に店内を見て回る。

 

緒方「はい、なんとか出来ました。今また新しい棚作ってるんですよ」

Sさん「ほんと物作りが好きなのね。やっぱり木は落ち着くし良いわねぇ。あ、この板に節があるわ」

 

節?

節を見てるということは…

 

緒方「もしかして、以前は木材関係のお仕事なさってたんですか?」

Sさん「んー、私じゃなくて旦那がねぇ。板の材質とか気になっちゃうのよ。うちの工場にいっぱい木材余ってるから、いろんな木を見てるの」

緒方「あ、工場をやられてるんですか。なるほど、どおりで」

Sさん「旦那が亡くなってからもう誰も使わないから、全部放ってあるのよ」

緒方「そうでしたか…」

 

Sさん「あ、もしよかったら工具使わない?欲しいものがあったら持って行っていいわよ」

緒方「え、いいんですか?でも…」

Sさん「いいのいいの。工具だって使える人が使ってくれた方が喜ぶわ」

 

せっかくなので工場を見せていただくことに。

 

都内にある3階建ての工場で、今は誰も使用していないそうだ。

使えそうな材料や工具がたくさんあるし、スペースも十分広い。

 

緒方「立派な工場ですね!」

Sさん「そうかしら?私がいるときだったら好きな時に使っていいわよ」

緒方「本当ですか?ありがとうございます!」

 

埼玉で作り東京まで車で運んでいた私にとっては、浅草橋に近い工場を借りれるのは非常にありがたい!

何かお礼をしないと。

 

緒方「あ、もしよろしければこれ…」

そう言ってお茶菓子を渡そうとすると、

 

Sさん「若い人がそんなに気を使わなくていいのよ。次からは持ってこなくていいからね。持ってきたら逆にここ貸さないわ」

緒方「失礼しました…」

 

Sさん「このあたり下町はね、昔から義理と人情を大事に過ごしてきたの。人との繋がりを大切にしてきて、困った人がいたら誰であろうと助ける。

昔は良い時代だったよ。会社や学校に向かう人、帰る人。

ここの工場で暖をとって『あったまりに来たよー』なんて言ってね。

誰であっても話しかけて挨拶して。笑顔が溢れてたよ。

今はそんな人も減ったね」

 

そうだったんだな。

下町人情も時代の流れに消えつつあるのか。

 

Sさん「工場って古臭いでしょ?特に木工所なんて誰もやりたがらないし時代遅れだから、この際畳んじゃおうかなんて思ってるんだけど、木の温もりって素晴らしいじゃない」

緒方「私もそう思います。効率を求めて全部機械化すれば良いわけではないし、人の手をかけてこそ完成するものがあります。木工製作の文化は続くべきですね」

 

機械化が進むにつれて、世の中は確かに便利になった。

効率化を求める一方で失いつつあるものは、案外感情なのかもしれないな。

だからハンドメイドには温かみがあるんだろうなぁ。

 

緒方「…工場を貸していただき、どうもありがとうございます。また時々作業しに来てもいいですか?」

Sさん「いつでもどうぞ。差し入れいらないわよ」

 

手動と自動、木材と金属。

無機質かどうかで、きっと大きな差があるんだろうな。

え、なんで機械化をそこまで否定するかって?

 

3Dプリンタがなぜか急に壊れたからです